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弟子や従業員を雇った瞬間、一人親方の税務・保険・手続きは激変する。この記事では電気工事士の一人親方が人を雇う際に必要な手続きを、具体的な金額・期限つきで解説する。
一人親方が弟子・従業員を雇うと何が変わるのか
一人親方のままでいる間は、税務も保険もシンプルだ。しかし人を雇った瞬間に「事業主」に変わる。やるべき手続きが一気に増える。
主な変化は以下の4点に集約される。
- 労働保険(労災・雇用保険)の加入義務が発生する
- 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入判断が必要になる
- 源泉徴収義務者になる
- 給与支払い事務・年末調整が必要になる
「弟子だから関係ない」と思っている一人親方は多い。しかし国土交通省 建設業一人親方問題検討会でも指摘されているとおり、実態が雇用関係にあれば法的には「労働者」扱いになる。名目だけ「弟子」「外注」にしても通用しない。
雇用前に確認すべき「雇用か外注か」の判断基準
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まず整理すべきは「その弟子が雇用なのか外注なのか」だ。この判断で手続きがまったく変わる。
雇用(労働者)とみなされる主なケース
- 作業時間・場所を自分(親方)が指定している
- 仕事の断り自由がない
- 報酬が時間・日給ベースで固定されている
- 材料・工具を自分が支給している
- 他社の仕事を禁止している
外注(一人親方)とみなされるケース
- 工程単位・件数単位で請け負い契約を結んでいる
- 道具・材料を本人が用意している
- 他の元請けからも仕事を受けている
- 自分で工事の完成責任を負っている
18年の経験から言うと、「弟子を外注扱いにしたい」と考える一人親方は多い。しかし実態が雇用に近ければ税務調査で指摘される。一人親方に外注費を支払う際の源泉徴収と請求書の正しい書き方も合わせて確認しておくと安心だ。
【雇用の場合】必要な手続き一覧と期限
弟子・従業員を正式に雇う場合、以下の手続きが必要になる。期限を守らないと罰則が科されることもある。
①労働保険(労災保険・雇用保険)の加入
1人でも従業員を雇った時点で加入義務が生じる。手続き期限は「雇用した日の翌日から10日以内」だ。
手続き先は最寄りの労働基準監督署(労災)とハローワーク(雇用保険)。
保険料の目安は以下の通りだ(2026年度版)。
| 保険の種類 | 保険料率(建設業) | 負担割合 |
|---|---|---|
| 労災保険 | 賃金総額の3.5% | 全額事業主負担 |
| 雇用保険 | 賃金総額の1.55% | 事業主1.0%/本人0.55% |
月給25万円の従業員を1人雇った場合、年間の労働保険料は約15万円になる計算だ。
なお、一人親方自身の労災保険は特別加入制度で別途加入が必要だ。詳細は電気工事士の一人親方が加入すべき労災保険の種類と費用・手続きで確認してほしい。
②社会保険(健康保険・厚生年金)の加入
個人事業主の場合、常時5人以上雇用すると社会保険の強制適用になる。4人以下でも加入は可能(任意適用)。
5人以上になった時点で手続き期限は「5日以内」。年金事務所に届け出る。
月給25万円の場合、社会保険料は会社・本人で合計約7万4千円/月になる。事業主負担は約3万7千円だ。
③源泉徴収義務者としての届け出
従業員に給与を払う事業主は、給与から所得税を天引きして国に納める義務がある。
まず税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する。期限は「雇用した日から1ヶ月以内」。
合わせて「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」も出しておくといい。これで納付が年2回(7月・1月)にまとめられる。従業員9人以下なら利用できる。
④労働条件通知書・雇用契約書の作成
雇用時には労働条件通知書の交付が法律上の義務だ。記載必須事項は以下。
- 労働契約の期間
- 就業場所・業務内容
- 始業・終業時刻、休憩・休日
- 賃金の計算方法・支払い日
- 退職に関する事項
口頭だけでは後でトラブルになる。必ず書面で交付する。
税務上の変化:確定申告と給与計算の実務
給与は経費になる
従業員に払う給与は全額「給料賃金」として経費計上できる。これは節税上メリットが大きい。
月給25万円×12ヶ月=年300万円が経費になれば、課税所得が大幅に圧縮される。
ただし青色事業専従者(配偶者・親族)に給与を払う場合は「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要だ。期限は「その年の3月15日まで」(新たに専従者となった場合は2ヶ月以内)。
確定申告での経費計上方法は電気工事士一人親方の確定申告で経費になるものと節税の方法も参考にしてほしい。
年末調整の義務が発生する
従業員を雇うと、毎年12月に年末調整をしなければならない。毎月天引きした所得税の過不足を精算する作業だ。
必要書類は以下。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書
翌年1月31日までに「給与支払報告書」を市区町村に、「法定調書合計表」を税務署に提出する。
消費税の扱いも変わる
給与は消費税の課税対象外だ。外注費と違い、仕入れ税額控除の対象にならない。インボイス制度との関係でも、外注と雇用では消費税の計算が大きく変わる。
インボイス対応の詳細は電気工事士一人親方のインボイス対応方法|適格請求書発行事業者への登録で確認してほしい。
実体験:弟子を雇ったときに私が失敗したこと
実際に私が現場で経験した話をする。一人親方として独立して5年目、弟子を初めて雇ったときのことだ。
当時は「弟子だから外注扱いで大丈夫」と思い込んでいた。しかし実態は完全に雇用そのものだった。
毎日朝8時に自分の現場に来させ、日当1万8千円を現金で払っていた。工具も自分が支給した。他の仕事はさせなかった。
2年後、税務署から問い合わせが来た。「この外注費は実態として給与ではないか」という内容だった。結果的に過去2年分の源泉徴収漏れを指摘され、延滞税込みで約28万円を追加納付することになった。
18年の経験から言うと、「弟子扱い」「外注扱い」の曖昧な運用が一番危ない。最初から実態に合った形で手続きを進める方が、長い目で見ると確実にコストが下がる。
弟子を雇って事業を拡大する場合の注意点
建設業許可の人員要件に注意
従業員を雇って売上が増えると、建設業許可を取得・維持するうえでの人員要件も関係してくる。特に「専任技術者」の配置が重要だ。
電気工事業では第一種電気工事士か、一定の実務経験を持つ者が専任技術者になれる。電気技術者試験センター(公式)で資格要件の詳細を確認しておこう。
現場入場書類の整備が必要になる
従業員を元請けの現場に入れる場合、雇用保険・社会保険の加入証明書類が必要になる。未加入のまま現場に入れようとすると入場を断られることがある。
現場入場に必要な書類については一人親方が現場に入場するための条件と必要書類|建設キャリアアップとの関係を参考にしてほしい。
給与水準は市場相場を参考にする
弟子への給与設定で迷う人は多い。低すぎると人が定着しない。高すぎると収益が圧迫される。
電気工事の日当相場は経験年数によって大きく変わる。相場の目安は電気工事士一人親方の単価相場|作業種別ごとの日当・時間給の目安で確認できる。
手続きのスケジュール:雇用日から1ヶ月間のやること
| 期限 | 手続き内容 | 提出先 |
|---|---|---|
| 雇用翌日から10日以内 | 労働保険関係成立届の提出 | 労働基準監督署 |
| 雇用翌日から10日以内 | 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク |
| 雇用翌日から10日以内 | 雇用保険被保険者資格取得届 | ハローワーク |
| 雇用後1ヶ月以内 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 |
| 5人以上雇用から5日以内 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 年金事務所 |
事業規模拡大後の収益管理
人を雇うことで仕事量は増やせる。しかし単純に人件費が増えるだけでは収益は改善しない。
弟子1人を雇う場合、最低でも月額50万円以上の売上増加が必要だ。内訳は以下の通り。
- 給与:月25万円
- 労災・雇用保険:月約1万3千円
- 交通費・工具代:月約2万円
- 有給・休日コスト:実質月3万円相当
- 合計:月約31万円のコスト増加
弟子が独り立ちして1件こなせるようになるまでには、最低でも6ヶ月〜1年はかかる。その間も給与は発生する。資金繰りの計画を先に立てることが重要だ。
収益を増やすための具体策は電気工事士一人親方の年収を上げる方法|単価交渉・多角化・信頼構築の3軸で詳しく解説している。
よくある質問(FAQ)
Q. 弟子を「外注」として扱えば雇用の手続きは不要ですか?
A. 実態が雇用であれば「外注」名目では通りません。作業時間・場所の指定、道具の支給、他社仕事の禁止などが重なる場合は税務調査で指摘される可能性があります。実態に合った契約形態を選ぶことが重要です。
Q. 従業員1人だけでも社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければなりませんか?
A. 個人事業主の場合、常時雇用する従業員が5人未満であれば社会保険の強制適用にはなりません。ただし5人以上になると強制適用になります。また4人以下でも任意で加入することは可能です。従業員の採用力・定着率を上げたい場合は任意加入も検討する価値があります。
Q. 労働保険に加入しないまま従業員を雇い続けるとどうなりますか?
A. 労働保険の未加入は法律違反です。従業員が業務中に怪我をした場合、労災保険からの補償が受けられず、全額を事業主が負担することになります。また遡及して保険料を徴収されることもあります。雇用した翌日から10日以内に手続きを済ませてください。
Q. 家族(妻や兄弟)を弟子として雇う場合も同じ手続きが必要ですか?
A. 家族を雇う場合は「青色事業専従者」として扱う方法があります。その場合は給与の経費計上が認められる代わりに、3月15日までに税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。労働保険については、同居の家族は雇用保険の加入対象外です。ただし労災保険は特別加入できる場合があります。
Q. 従業員を雇うと確定申告の方法は変わりますか?
A. 基本的な確定申告の流れは変わりません。ただし給与を経費(給料賃金)として計上する必要があり、年末調整の事務も加わります。また翌年1月31日までに給与支払報告書を市区町村に提出する義務が生じます。帳簿の管理が複雑になるため、会計ソフトの導入を強くおすすめします。
✍️ 著者プロフィール
電気工事士歴18年。大阪を中心に年間200件以上の電気工事を担当。第一種電気工事士・認定電気工事従事者の資格保有。現場で得た実体験をもとに、電気工事に関する情報を発信しています。
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